PSI Vol.44, No.1 December 2022 Data 1i. pp.66-75.
サイから見る生と死
三好 一郎*

1.はじめに
 古来から、いつまでも若く元気で過ごしたいというのが人間の願望。
 だが、この世に生命をもって生まれた、生きとし生ける者は、全て死を迎える。
 それは、元気で事業に成功し社会的地位、名誉を得た者であっても、また病気に苦しみ極貧の生活を送った者にも、均等に与えられるこの世でのゴールとなっている。

 明治期の徳冨蘆花の小説「不如帰」 明治36年5月刊行に象徴されている生への願望「片岡中将の愛娘浪子は、実家の冷たい継母、横恋慕する千々岩、気むずかしい姑に苦しみながらも、海軍少尉川島武男男爵との幸福な結婚生活を送っていたが、浪子の結核を理由に離婚を強いられ、夫をしたいつつ死んでゆく。浪子の「あああ、人間はなぜ死ぬのでしょう。生きたいわ。千年も万年も生きたいわ」の一言に生への切実なる願望が表現されている。

 秦の始皇帝は、徐福に命じ不老不死の霊薬を、垂仁天皇も田道間守(たじまもり)に銘じて霊薬を探させているのだが、これは地位名誉を極めることができても唯一叶わぬものが寿命であるということになる。

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